PIC/Sの基礎知識。PIC/S GMPとは?PIC/Sの目的や成り立ちは?

そもそもPIC/Sとは?

PIC/Sは、Pharmaceutical Inspection Convention and Pharmaceutical Inspection Co-operation Scheme(医薬品査察協定及び医薬品査察共同スキーム)の意であり、医薬品分野における国際的に調和されたGMP基準および査察当局の品質システムの開発・実施・保守を目的とした査察当局間の非公式な協力組織です。

専門的な技術を持つ組織(A technical expert’s organisation)、合意と相互の信頼(Based on consensus and mutual trust)、メンバーによる運営(Driven by Members)、専門的かつ個人に紐づく強固なつながり(Cemented by strong professional and personal links)の4つをビジョンに掲げ、各国で活動がなされています。

PIC/S GMPについて

PIC/S GMPは、欧州のGMP(EU-GMP)をベースに、「序論」「パート1:製剤 GMP(医薬品の基本要件)」「パート2:原薬 GMP(医薬品有効成分の基本要件)」「Annex(付属書)」から構成されています。

Annexは現在20まであり、コンピュータ化システム、品質マネジメントやリスクマネジメント、適格性評価及びバリデーション、人員、外部委託作業(サプライヤー管理)など広範囲に渡って詳細に記述された資料となっています。これらはPIC/Sのサイトから原典をダウンロードすることが可能です。

PIC/Sの目的

PIC/Sは、GMPの分野で共通の基準を設け、各国の査察官にトレーニングの機会を提供することによって、世界中の査察基準を整合させることを目指しています。

また、権限ある当局、地域および国際機関の間の協力とネットワーク形成を促進し、共同査察プログラムや教育セミナーなどの提供することを目的としています。

これは医薬品の分野において、調和のとれたGMP規格および品質検査システムの国際的な開発、導入、維持を主導することであり、PIC/Sの活動に反映されています。

このように、PIC/S は、加盟当局間の協力関係を強化し、GMP基準の国際化を推進するものではありますが、法的な拘束力はありません

PIC/Sの成り立ち

PIC/Sは、その前身であるPIC(Pharmaceutical Inspection Convention:医薬品査察協定、1970年設立)を発展させる形で、1995年に設立されました。

PIC/Sの本部はスイスのジュネーブにあります。

日本はPIC/Sに2014年7月に加盟し、現在世界中から52の査察当局が加盟(2019/4月)しています。

欧州のみではなく、台湾や香港といったアジア圏、イラン、トルコと言った中東や中米メキシコなど近年加盟国・地域が全世界に広がっています。

PIC/S加盟のメリットとは?

しかし、そこで疑問が湧いてきます。そもそも法的な拘束力がないのであれば、発言に効力がないのではないか?加盟することにメリットはあるのか?

法的拘束力は“現在は“ありません。
もともと、EFTA体制時代に医薬品GMP基準の国際協調を目指してヨーロッパで発足した、PIC(Pharmaceutical Inspection Convention:PIC/Sの前身)は、国家間協定であり、法的拘束力がありました。1995年までにPICは18の加盟国を集めることとなりましたが、EU法の下では、EU以外の国が正式加盟することができず、いったんその拡大は頭打ちの状態となりました。そこで、この問題を解消するために、国家間協定を排して規制当局間の協定である「PIC Scheme」として新しい機構が設立されたのです。

すでにEU諸国で浸透していたPICを継承した形のPIC/Sは、EU加盟国内では当然医薬品製造及び輸出入の要件となりました。さらには2011年のアメリカ加盟が決定打となり、法的拘束力はないにもかかわらず、事実上の国際標準となったのです。

日本の加盟

PIC/Sに準拠していることを輸入医薬品の要件としている国が増加し、日本はいつまでも独自路線を歩むわけにはいかない状況になりました。

また、自国製品の国際的な評価が低下すること防ぎ、高い品質を確保していることをアピールする意図もあり、ようやく2014年に加盟しました。

もちろん、疎外されることを恐れてしぶしぶ加盟したわけではなく、多くのメリットを享受できることも期待されました。

例えば、加盟国の市場規模・販売網など国内事情の情報共有、公的機関の査察の免除、ダブルスタンダードの解消、医薬品の輸出に係る手続きの簡略化、経費の削減、消費者の安心・安全性の向上などが挙げられます。

しかし当然、新しいガイドラインを採用することは簡単ではありません。まずは、国内の既存の規制とPIC/S GMPとを比較し、その差異をどう整合させていくかという検討が始められました。

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