ALCOA原則とデータインテグリティ(DI)

紙ベースのデータインティグリティ(DI)の2回目です。
今回、紙記録のDIについてALCOA原則をWHOガイダンスをベースに説明します。

第1回の記事はこちら

WHOのDIガイダンス


2015年9月に「Guidance on Good Data and Record Management Practice」と題してドラフト版が発行されました。
DI全体の考え方がコンパクトにまとまっており非常に読みやすいと思いますので、一度、目を通してください。

ALCOA原則

各DIガイダンスはALCOA原則を採用していますが、これは紙記録に関しても適用されることは、ご承知の通りです。

ALCOA原則

WHOガイダンスはALCOA原則を以下の様に説明しています。

  • 企業は文書化の実践規範(Good Documentation Practice)に従い、記録とデータの正確性、完全性、一貫性、信頼性を使用される全期間(データライフサイクル)を通して保証すること。
    文書化とは、帰属性、判読性、同時記録性、原本性、正確性の特性を持つべきであると原則を求めている。これらの特性はALCOAと称される。

ALCOA原則に沿って、紙記録への対応に関して必要な代表的な項目をリストアップしてみました。

① A:Attributable

  • 手書きの署名
  • 押印⇒海外からは印鑑の運用管理強化を指導されるケースが多いと聞きますので、海外対応は検討が必要と思われます。
  • 日付記入
  • 記録等への時刻記入⇒GMP区域の時刻の統一(時計合せ)が必要となります。

② L:Legible(Traceable & Permanent;履歴追跡性と恒久性を含む)

  • 恒久性のある不滅インクの使用
  • 鉛筆や消しゴム及び修正液の使用禁止
  • 記録の変更方法。一本線で取り消し、名前・日付・変更理由を記載する。
  • 連番ページ番号を付けたノートの発行管理(ページ抜け・飛びの防止)
  • 連番を記載したブランク記録用紙の発行管理(発行した全記録用紙の履歴管理)
  • 記録の作成・照査・承認には関与しないあらかじめ定められた保管担当者(通常品質保証部門の人)が、安全かつ管理された文書保管庫への紙の記録と保管する。
  • 時間の経過とともに薄れるような紙とインクは保存処理をする。

③ C:Contemporaneous

紙の記録を同時に行う場合は、以下を参考とすること

  • ラボノート、ログブック、バッチ記録等の管理された正式書式に職員が確実に作業時に直接記録するための、手順書・教育・レビュー・監査・自己点検。
  • 日付とともに記録するように規定した手順書。時間が重要な行為の場合には、時刻も記録する。
  • 良好な書面設計。書面は適切に設計されていること。行為が記録されるブランク書式・書面が確保されていること。
  • 同期している時刻源を使って行為に日時を記録する。同期している時刻源とは、権限のないものには変更できないようになっている施設の時計やコンピュータ化システムの時計である。可能であれば、秤量などの手動操作の日時は自動化すること。

④ O:Original

オリジナル記録と其の真正コピーの維持管理は以下を含めて行う

  • 紙の記録を保管庫などの管理された安全な保管場所に保管する。
  • GMP記録を保管担当者の役割と責任を規定し、モニターすること。記録保管担当は通常品質保証もしくは独立した文書管理部門の責任とすること。
  • 記録の目録により、すぐに取り出せるようにしておくこと。
  • リスク評価に基づく適切な頻度により、紙もしくは静的形式の記録を取り出せることを定期的にテストする。
  • オリジナル紙記録が真正コピーとして、マイクロフィルム等にアーカイブのためにコピーされている場合、適切なリーダー機器を用意する。

オリジナル記録とは

  1. スタンドアローン コンピュータ化ラボ機器中のオリジナル電子データやメタデータ
  2. 自動化製造システム中のオリジナル電子データやメタデータ(DCS,SCADA,など)ネットワークデータベースシステム中のオリジナル電子データやメタデータ(LIMS,MES,など)
  3. 紙ノートに手書されたアンプル調製情報
  4. 天秤秤量のプリント記録
  5. 紙のバッチ記録 ・・・など。

⑤ A:Accurate(電子記録も含みます)

紙記録および電子記録の正確性を保証するために、以下の管理を行う

  • 天秤、pH計などプリントアウトを生成する機器の適格性評価、校正、保守
  • 電子記録を生成、処理、維持、配布、アーカイブするコンピュータ化システムのバリデーション
  • システムをバリデートし、コンピュータ化システム内あるいはシステム間で転送を行う時の適合性を保証
  • 分析法バリデーション
  • 製造工程のバリデーション
  • GXPデータのレビュー
  • 逸脱、疑義がある結果および規格外の結果に対する調査

以上、WHOガイダンスから紙の記録に関連する項目を部分的に紹介しました。

まずはできることから       


先日、EU査察に立ち会いましたが、「2015年にMHRAのDIガイダンスが出ているのに対応が現段階で計画・実施中というのは、対応が遅すぎる」との意見が査察官からありました。
日本もPIC/Sに沿った形で近々にガイダンスが通知されると思われます。
電子記録も含めて対応すべきことは色々とありますが、まずは出来ることからやりましょう!

皆さんは、時計の時刻合わせは対応されていますか?