見え始めた2030年に向かっての医薬品製造および医療技術の進展

前例のない空前の好機が到来している

自主的に行動に移さなければ、好機を逸して他の後塵を拝するのみとなろう。
換言すれば、現在時点で自明な好機到来として改革推進を行い、未来に向けて準備するのではなく、それを構築すべき時期がきている。
そのためには、高度な知識と経験を有する業界関係者の協力なくして、その明るい展望を開き、具現化することは叶わない筈である。
そのような未来に向けた挑戦課題を好機として巧く捉え、実現化するためには、以下の四項目を如何に活用するかが鍵となろう。

  1. ロボット技術とAI(人口頭脳:Artificial Intelligence)の高度活用
  2. ビッグデータの高度処理技術の活用とスモールデータの峻別
  3. ICHにより国際調和されたガイドラインの遵守
  4. 情報システムを活用した新たなビジネス手法の構築

上記の重点項目を挑戦課題と捉え、近未来型医薬品製造技術の構築と実現に向けて組織的に取り組むことは、荒波に乗り出す航海にも喩えられよう。
しかし、基本的コンセプトは、新たな挑戦課題に対する危惧を極力最小化するために多くの重要事項を事前学習することが必須である。
 第二次大戦の敗戦後、特に1960年代において、日本の産業復興実現に向けたいわゆる産官学の一体化した戦略が巧く機能し、成功したのは、「三人寄れば文殊の知恵」に喩えられる。
「文殊」とは知恵を司る菩薩のことで、凡人でも三人集まって相談すれば、文殊に劣らぬほどよい知恵が出るものだという意味で日本ではよくつかわれる譬えである。

英語圏でも
【Two heads are better than one.】一人の頭より二人の頭の方が勝っている。
【Two eyes can see more than one.】二つの”見る”目=判断能力は一つの目より多くの事を見ることができる。
などの表現がよく使われる。
日本では、「三」だが、英語圏において「ニ」である理由は、英語表現の中核が”I”だからで、まず物事の思考の開始は「自分」からであり、そのIがwe(自分を含む二人)になっただけで、関かりの深い一人称として二名に限定されていることがみそであろう。
ただし、二例目の英文は、両眼を意味するので、”I”に限定されている。


ところで、現在の医薬産業の全体像を俯瞰すると、産官学と言う単純な三種類の区分では纏められない、極めて組織横断的(Cross-functional)な公開議論の場や、協力関係の構築がかなり進んでいると考えられる。

最近の海外の論文でも、以下のような多面的人材活用表現がある。

【When Conceiving New Products, 300 Brains Are Better Than One
新製品を考え出す場合に、三百の頭脳は一つの頭脳より優れている。
By David Pogue, personal-technical columnist for The New York Times
APRIL 4, 2002

他の類似例として、少し長いが非常に多くの頭脳の効能に関する英語原文と試訳を下記する。

【11,000 brains are better than one.】
11,000の頭脳は1つの頭脳より優れている。

【As a business professional, you are constantly faced with strategic and operational challenges.
There is a demand for fast and accurate decisions whilst navigating through a complex reality, where best practice and available tools change rapidly.
Many professionals would benefit from discussing these challenges with peers outside their company, and perhaps even test ideas and plans before presenting them to colleagues or the board of directors.
一人の事業専門家として、皆さんは戦略的及び事業活動上の難題に常に直面している。
複雑な現実の中で巧く事態を乗り切り、迅速で細部まで正確な決定を求める有無を言わせぬ要求があるが、最善慣行(ある結果を得るのに最も効率の良い技法、手法、プロセス、活動など)と即利用可能な幾つかの手段などが急速に変化している。
多くの専門家は、所属会社外の仲間達とこのような難題を協議するという利得に預かり、恐らくその仲間達を同僚または役員達に紹介する前に、着想や計画さえその良さを検証しようとするはずである。
Published on April 25, 2014 By Dr. Peter Arnoldi, Chief Executive Officer at EGN Singapore & EGN Vietnam

また、2017年6月13日にベルリンで開催された欧州PDA年会で基調講演した、英国にある有名な財団であるNSF (National Health Foundation) Health Sciencesの副社長Dr. Martin Lushは以下のように述べている。

【700 Brains are better than one including the following groups.
七百の頭脳は一人の頭脳より優れている。

それらの頭脳集団には以下が含まれる。

  • Industry across the product life cycle:製品のライフサイクル全般を通じた産業界の人達
  • Patient groups:患者及びその家族達
  • Payers and insurers:医療費補填者と保険会社
  • Healthcare providers:患者に直接医療行為のできる医療従事者達
  • Investors:投資家達
  • Academia:学会
  • Regulators:規制当局

上記のことは、関連する多くの多彩な人材ネットワークと、その活用が新たな医薬品ライフサイクル全般に渡る課題に取り組む革新的展開において、解決策を見出すために必須であることを示唆している。

医薬品産業とニューノーマル

最近、New Normal(新常態)という新概念が良く使われるが、この言葉は、米国の債券運用会社ピムコ(PIMCO)の最高経営責任者であるモハメド・エラリアン氏(Mr. Mohamed El-Erian)が2009年に提唱したことから経済関係者の間に広まったようだ。
また、この用語は2015年3月に開催されたChinaの全国人民代表者大会で、李克強第7代国務院総理が成長鈍化を容認するため、「新常態(New Normal)」として新経済理念を打ち出した時にも使われた。

この概念には「新しい秩序である」ことと、それが「常態化する」ことの二つの意味が込められており、構造的な変化が避けられない状況を示唆している。
2008年秋に米国発の金融危機(リーマンショック:the 2008 financial crisis due to the Bankruptcy of Lehman Brothers)を発端とした、世界経済の激変は「元通りにはならない」すなわち「新常態」ということになる。
このNew Normalという英語概念は新常態と三字語で和訳されているが、この数年間の社会経済状況の変化過程で医薬品業界では、その意味する内容が以下のような四つの諸要素を含んでいると考えられてきている。

  1. Volatile(情勢不安定)
  2. Uncertain(不確定)
  3. Complex(状況が複雑)
  4. Ambiguous(多義的で不明瞭)

上記の諸要素を踏まえて、偽薬や窃盗、製造文書の偽造や違法なデータ改造など、世界的な医薬品関連の問題発生頻度の増大傾向の中で、巨大な新たな傾向として、以下のような課題が医薬関連産業側に提示されてきている。

  • 信頼と責務および公開透明性
  • 従事者全員参加
  • 国際調和という難題への取り組み
  • 患者の忍耐からの解放
  • 利益なくして報酬無し
  • リスク忌避による新たな事への恐れ

 

これからの医薬品産業

社会的な一時的混乱は時代的変化を反映しており、新たな機会を捉える活動を積極的に実践するために、長期的展望に基づき医薬品産業も革新的技術の利用と創造的志向へと転換すべきであろう。

そのような時代的変化は以下のようにスイスにあるIMD(国際経営開発研究所)の2016年のデータからも読み取れる。

  • 現在の医薬品特許の全ては数年以内に切れてしまい、売り上げは大幅に減少し、莫大な開発投資費に拘わらず損失部分が増大する。
  • あらゆる新薬の60%は少量生産から開始される。
  • 先進諸国の高齢者1人当たり医療費は、若年層の5倍となり、医療費の65%が高齢者向け負担である。
  • 治療的医療から予防医療に転換されつつある。
  • 2030年迄に世界人口の半分近くが肥満対象者となる。(健康サプリ志向)
  • 2030年には世界人口の85%が新興国。
  • 2030年には、STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)履修者の85%がインドと中国人。理系高学歴履修者は両国で世界の圧倒的多数を占めるが、現場経験が鍵となる。
  • 現在のインド人学卒者は毎年150万人。これに反して現在の日本の大学卒が50万人、大学院卒業総数は、約23万人で、その内訳は、理系卒が20%、文系卒者が80%である。
  • インドの医薬品企業の80%が家族経営
  • 2015年段階での中国の優秀な科学技術は1万人となる。
  • 2015年の欧米科学技術教育履修者のうち、中国人は 8万人となる。
  • その時点での中国の指導的人材は自給自足可能か?バイオ技術、素材科学、IT、ロボットとAI技術など。
  • 2015年の中国による企業合併買収投資額約$1兆1千億
  • 2025年迄に、生物製剤は毎年7%成長し、合成薬は4 %成長する。
  • 2025には遺伝子プロファイリングは3.5時間で、$1万未満で可能となる。
  • この10年(2006~2015)で世界的研究開発投資の割合は、米国が37%から30%に、中国は 2%から14.5%に変わった。