5分で学ぶ温度マッピング:測定あるあるの落とし穴とは?

温度マッピングは、自動倉庫などの保管施設内を細かいグリッドに分割して温度測定することにより温度分布を数値で把握し、また常設で設けた温度センサーが、倉庫内の温度管理点として適切であるかを確認するための手法で、GDPGood Distribution Practice:医薬品に関わる流通管理のガイドライン)の普及に伴って、近年提唱されるようになりました。しかし医薬品製造販売に関わる者の中でも、まだまだ理解が不足しているのではないかと思われる節が多々見受けられます。

今回のコラムでは、温度マッピングを実施するにあたり、陥りやすい間違いを防ぐためのポイントを挙げてみました。この3つのポイントについて説明していきます。

センサーを正しく配置する

正しい計測をするためには、仮設か常設かに関わらず測定のためのセンサーが適切に設置されていることが重要です。温度マッピングの測定は、平面的・立体的に必ずすべての保管スペースを包含するように温度センサーを設置しなくてはなりません。例えば、平面的に見た場合は、パレットに積載される保管物よりも外側となる位置にセンサーを設置しなくてはなりません。立体的に見た場合は最下段のセンサーは保管物よりも下、つまりパレット面より下に設置し、かつ最上段のセンサーはパレット上に積載された保管物より上に設置しなくてはなりません。

また、温度センサーに周囲の空気が自然に流通できるよう、ラック上の保管物によってセンサーを周囲の雰囲気から遮蔽してしまうことがないように注意する必要があります。さらに空調空気が直接当たる箇所、発熱する物体の近傍、または直射日光が当たる場所にセンサーを設置すると、設置場所周囲の雰囲気温度を正確に測定できない可能性がありますので、そのような場所を避けてセンサーを設置しなくてはなりません。

空調設備の事前確認を行う

 

もし温度マッピングを実施しようとしている建屋が新築で、初めての温度マッピングを行うという場合は、いきなり本番の測定を行わず、必ず事前に空調設備の調整と事前の空調能力の確認をして下さい。適切に設計され施工された空調設備であっても、全くの無調整でその能力が最大限に発揮されるというものではありません。空調機の吹き出し温度、風量、風向など、ひとつひとつの設定が倉庫内の温度分布に大きく影響を与えますので、少なくとも2日から3日程度の事前測定を行い、設計通りの空調能力が発揮されていることを確認しておくべきです。

調整が不十分なままで温度マッピングを実施して、満足な測定結果が得られなかった場合、数日間の測定データを無駄にするだけでなく、再び倉庫内への測定人員以外の出入りを制限して、再度所定の日数の測定を実施することになり、竣工間際の時間のない期間に、他の工種との調整や倉庫の使用開始スケジュールに影響を及ぼすことになってしまいます。

測定データを検証する

温度マッピングは、技術的な裏付けもなく設備の能力を超えた厳しい温度基準を設定して、それをクリアするかどうか測定するテストではありません。例えば、高さ25mもある自動倉庫において、しかるべき能力の空調設備を設置していない場合、最下部と最上部の温度差が20℃以上になることもあります。そのような施設で、すべてのポイントを保管温度15℃~25℃の範囲に収めるなど、そもそも無理な話であり、バリデーションにおける「期待される結果」を検証しているとは言い難いものであります。

温度マッピングとは、倉庫内温度の分布を数値により把握することと、常設で設けた温度センサーが、倉庫内の温度管理点として適切であるかを継続的に確認することが、主な目的であることを忘れてはなりません。倉庫内温度の分布を見える化することによって、倉庫内のあるエリアでは、どれだけの温度範囲に収まっているので、温度管理の厳しい物品を保管することが可能であるとか、他のあるエリアではもう少し温度の振れ幅が大きいので、温度管理が緩い物品を保管するようにしよう、などという対応が可能です。また、温度監視用として例えば、常設の温度センサーを上中下段に設置しているとすると、下段ラックの全ての保管エリアは、下段センサーの温度プラスマイナス何℃の幅の中に入っているとか、中段ラックおよび上段ラックはどれほどの傾向であるかを把握することが可能になります。

温度マッピングは、保管施設内の温度分布を正確に把握して、保管施設としての用を成しているかどうかを評価することが本来の目的ですが、旧来馴染みのなかった「温度マッピング」という言葉に気を取られすぎてしまい、本来の目的を見失っているのではないかと思われる事例が多々見受けられます。見よう見まねで温度マッピングを実施しても、得られたデータが正確でなくては意味がなく、また単にデータを記録するだけに終わってしまってはいないか今一度原点に立ち返って検証して頂きたいと思います。

この記事のキーワード:

記事一覧へ